画像:森と湖の国 北欧フィンランドを訪ねて –生活にひびく豊かさの音–
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Study

森と湖の国 北欧フィンランドを訪ねて –生活にひびく豊かさの音–

2024.09.26

(Data)
・日程/2024年9月5日〜11日
・渡航先/フィンランド・ヘルシンキ近郊

 

残暑厳しい2024年9月、バルト海に面する森と湖の国 北欧フィンランドはヘルシンキを訪れました。フィンランドは人権と平等、ウェルビーイングを基本に据えた総人口550万余りの小国とのこと。白夜の残る夏の終わりは心地よく、旅の趣旨である“生活文化デザインの知見”が目立たずとも散りばめられた実りある7日間となりました。

 

旅の基点は首都ヘルシンキ。コンパクトなこの街は主要地は徒歩周遊でき、人口密度も低く流れる時間も比較的緩やか。人も街もどこか控えめで、ゆっくりと自らのペースで当地の空気を感じる旅となりました。際立ったのはその自然の多さ。郊外はもちろん、都市部であっても広範で緑豊かな公園や広場、街路樹が点在しており、自然と街が調和したその風景からは、北欧ならではの豊かさや感性が自然と立ち上がっています。街並みの美しさや心引く建築、プロダクト。ピクトサインをはじめとしたライフライン的グラフィックなど、デザインについては語り始めるときりがありませんが、そうした異国・異文化・目新しさによる高揚感とは反対に、心が安らぐ不思議な感覚を味わうことも多々ありました。居心地は良好、でもなぜ? 疑問を携え散策すると、通奏低音のように響く当国の「基礎デザイン基準の高さ」の音が聞こえてきました。

 

「基礎デザイン」とは一種の“型”と言い換えた方が捉えやすいかもしれません。武道や芸術に型があり、そこから数々の流派や解釈が開かれるように、デザインにおいても型が存在します。応用ではなく基本。そうしたデザインの基本となる「基礎デザイン」は、広く街・文化・生活を形作る模範や礎となり得ます。フィンランドの“型”は一斉に基準が高い。整えながらも簡素、華美でなく質実、過剰ではなく適正、生活のスケールに合った等身大な街———。「豊かさとは?」昨今繰り返されるその問いを当地での体感をたよりに紐解けば、過剰と不足の頃合いを見定め、簡素さを創造への余白と捉える視座へと行き着きます。日本から7,500km以上離れた森の国で、生活文化デザインの核心を垣間見た気がしました。

 

街を歩けば当国に自然と根ざす創造性の高さを感じる瞬間に幾度も立ち会うことができます。美しく簡素に整えられた街並みやパブリックアートを始め、大小様々な美術館やギャラリー、建築家アアルトの自邸や公共施設、その他大聖堂や公園などにも当地ならではの光と緑を敬い、簡素さを創造性に変える感性に出会うことができました。奇をてらうことなく、自ずと街と調和するその一景からは、国民一人一人が持つ生活文化に対する意識の高さを実感でき、永らく人を魅了し続ける北欧デザインの所以が静かに腑に落ちたように感じます。

 

デザインは身近で、日常にも溢れています。道中、自らの姿勢や役割について自問を重ねました。誤解を恐れず言及するならば、それは流行を生み出す先導型ではなく、根を張り腰を据え、ゆっくりとも着実に基準を底上げしていくようなフィンランド的な姿勢にあるのかもしれません。そこには特別なことは何もなく、さも見落とされがちな“丁度良さを捉える感性”だけが静かに響いています。当地の姿勢に倣い、僅かながらも感性の嵩を上げてゆくことを自らの使命とし当旅の結びとしたいと思います。

 

※生活文化デザインとは?
弊所では生活文化に視座を据えながら、グラフィックデザインが備える創造性を通して、人・社会・文化に寄与するデザインを「生活文化デザイン」と銘打ち、その実践を使命としています。その対象はクライアントワークに始まり、個人から企業、公共、社会、文化まで多岐にわたっています。